心の宝石箱

妹が三姉妹舎というネット古書店をやっているのですが、先日書庫を訪れたときのこと。1冊の本に強烈に惹かれ、よく中身も確かめないうちに「これ、買わせて!」と口走っていました。

それがこの本。

1976年 サンリオ出版
「人間なんてさびしいね」 絵・詩 やなせたかし

……暗いですか? 

いやいやいや、ものごとの表面だけで判断するなかれ。
誰でも知ってることだけど、あえて口にしないようなことがタイトルになっている。最高じゃないですか!この本には、実に心にしみわたる詩が36篇つまっています。誰もが持っている孤独感や寂しさ、夕日を見たときの泣きたいような気持ちや、海、めだか、金魚、風に重なる作者の心情…。どの詩をとっても、小さな水晶のかけらのようにポロッと心に入ってきます。

やなせたかしさんは戦時中に軍隊にいた経験もあるせいか、ただ甘く悲しいだけではなく、ドキッとするような鋭い言葉も紡ぎ出します。70〜80年代のサンリオは、こういう詩集やミニ絵本をけっこう出していました。

中学時代の私は、やはりサンリオから出ていた、やなせたかしさんが編集長の「詩とメルヘン」を愛読していました。

中学1年生のとき、同じクラスに加藤さんというちょっと変わった子がいて、私はその子に多大なる影響を受けていました。

加藤さんは「詩とメルヘン」の愛読者で、私は毎月加藤さんからこの雑誌を貸り、すみからすみまで読んでいたんですね。彼女は、美人で背が高くて頭がよくて英語がペラペラで…というとても大人っぽい子で、話題も趣味もまわりの子からはかけ離れていました。みんながアイドルに熱中する中、松任谷由実杉真理伊藤銀次なんかを聴いてたり、マンガの趣味もだいぶ玄人っぽかったり。とにかくオシャレで大人っぽかったんですね。まぁ、私も変わり者だったから、けっこう気が合ってました。

私にマンガの道を切り開いてくれたのも、加藤さん。

彼女のお姉さんがマンガ研究会に入っていて、私は加藤さんを通じて、お姉さんからペン先やイラストボードなどをもらってました。田舎の中学生はおこづかいも少ないし、マンガの道具がどこで買えるかもわからない。描き方もよくわからない。そんな私の救世主……までいうと大げさですが、とにかく大きな刺激を与えてくれた存在でしたね。休み時間はよくいっしょに絵を描いたり、詩を読んだりしてたな〜。あ、そういえば、私の絵に加藤さんが詩をつけたものがクラスで一大ブームになったこともありました。女の子たちから注文が殺到して、とてもじゃないけどさばききれないので最後は断ってしまったり。
卒業以来一度も会ってないけど、加藤さん元気かな。

時代がどんどんバブルに進むと、こういう叙情的なものや可愛らしいものがちょっとバカにされるような風潮になって、世の中は「ネアカ」「ネクラ」の乱暴な二分法で分類されるようになりました。明るいことがいいことだ、勢いのあることがいいことだ。脳天気でバカっぽい人がもてはやされて、繊細な人は「なんか暗〜い」の一言で、ばっさり切り捨てられる。自分も思春期にさしかかると、こういうメルヘンなものが恥ずかしくなってきて、いつしか遠ざかってしまった。

でも大人になって数十年ぶりに手にとると、以前よりも大きく大きく心に響きます。私たちは、こんなすばらしいもので育ててもらってたんだな〜と。

落ち込んだとき、癒やされたいとき、「心が軽くなる○○の言葉」みたいな本を読むのもいいですが、こういう本に心のドアを開けてもらうと、ズガーーン!ときますよ。そもそも文学や歌謡曲、アートにはそういう役割があったはず。70年代は今考えると、とにもかくにも真剣で熱い時代だった!! 
下の奥付の言葉を読んでも、その真剣さが伝わってきます。


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以前、サンリオについて熱く語ったブログはこちら